「せっかく遠くから来てくれたがやき、ここで採れゆうもんを召し上がってほしいがです」
　絶景で知られる天狗高原のすぐ麓にある集落活動センター「奥四万十の郷」では、地域の婦人部が中心となって「農家食堂café　イチョウノキ」を運営している。「地元で採れた山の恵み」にこだわったメニューやほっこりとした雰囲気が人気で、地域内外の人々が集まる場所になっている。
　この日もテーブルには、タケノコやイタドリ、ゼンマイなど、たくさんの山菜をはじめ、目にもおいしい旬の食材が並んでいた。
　定番メニューは「里芋のコロッケ」と「ナスのたたき」。いずれも豊かな自然を詰め込んだ味に、思わず顔がほころぶ。
　ここのメニューは郷地区にとっては珍しいものではない。自分たちで作った無農薬野菜や採ってきた山菜など、普段から当たり前に食べている食材ばかり。彼女たちにとって「当たり前のもの」を提供することに最初は戸惑いもあったそうだ。しかし実際に始めてみると平野部の人々にとっては「豪華な山のごちそう」だった。「ぜいたく！」「自然の醍醐味！」といったお客さんの声に触れるうちに、今では自慢の食文化だと胸を張れるようになってきたという。
　最近では、牧野植物園との山野草料理の開発など、新しいことにも挑戦している。そんな姿は、自分たちの里への愛着と誇りに満ちていた。